せん断とはどんな加工方法?仕組み・種類・特徴と注意点を解説
金属製品の製造に欠かせない「せん断加工」は、私たちの日常生活で目にする多くの製品に活用されています。しかし、せん断の意味や加工の仕組みについてよくわからないという方もいるのではないでしょうか。この記事では、せん断加工についてわかりやすく解説します。
せん断とは
せん断とは、物体に対して同時に反対方向の力を作用させ、物体をずらして切断することです。はさみで紙を切るのをイメージしてみるとわかりやすいでしょう。物理的な視点で見ると、一枚の刃ともう一枚の刃が逆方向に動いて紙を挟み込み、接触点で反対方向に紙の材料をずらすことで切断されます。物体に反対方向の力を作用させると変形しますが、その変形が材料の耐えられる限界を超えると、せん断によって材料が切断されます。
せん断加工の仕組み
せん断加工とは、金属を切断するためにせん断を用いた加工方法です。上下に配置された2つの金型を使用して、平らな板状の材料を切断します。上側の金型(パンチ)が下側の金型(ダイ)に向かって動き、板を押し付けることで、材料が破断して切断されます。具体的には、材料を下側の金型(ダイ)の上にセットし、上側の金型(パンチ)で力を加えることで切断が行われる仕組みです。また、ダイとパンチの間には「クリアランス」と呼ばれる隙間を確保して、切断の品質を高めるのが一般的です。
せん断加工では、パンチが平板の材料に押し込まれることで接触部にわずかな曲線(R形状)が形成されます。さらに力が加わることで材料にせん断面ができ、ひび割れが広がります。その結果、破断面が形成され、最終的には材料が貫通して切断されます。
せん断加工と切断加工との違い
せん断加工は、物体を切断するためにせん断力を利用する加工方法です。一方、切断加工は物体を切り離すための一般的な加工方法を指します。つまり、せん断加工は切断加工の一種であるといえます。切断加工には、使用する技術や力に応じて、機械切断、電気切断(プラズマ切断)、ガス切断、レーザー切断、ウォータージェット切断などのさまざまな方法があります。
せん断加工の種類と特徴
せん断加工には、平板の板材を作るためのブランク加工と、その板材を加工するための様々な工法があります。以下では、せん断加工の主な種類を挙げて特徴について紹介します。
切断加工(シャーリング加工)
切断加工は、板材を切断するための一般的な手法であり、特に「シャーリング加工」と呼ばれる技術が含まれます。シャーリング加工では、ダイとパンチで板材を挟み込むことで切断します。特にブランク加工において、コイルや分厚い板の材料を切り出す際に用いられます。
分割加工(セパレート加工)
分割加工(セパレート加工)は、材料を切り離すためのせん断加工です。一つの材料を、非対称形にも対称形にも分割できるため、製品を材料から切り離す際に広く用いられる加工方法です。
打ち抜き加工(パンチング加工)
打ち抜き加工(パンチング加工)は、外形抜きとも呼ばれる基本的な加工方法です。金型を使用して、円形や四角形などの決められた型に打ち抜いて切断します。平板を上下から押さえて切断するため反りが発生しにくいといった利点があり、ブランク加工によく用いられています。
切り欠き加工(ノッチング加工)
切り欠き加工(ノッチング加工)は、抜型を利用して平板の末端を一部だけ切り取るせん断加工です。全体を切って分ける方法とは異なり、部分的に切り落とします。切断後の材料の端部に切り欠きを入れることで応力集中を緩和し、強度向上の目的で行うことが多い加工方法です。
切り込み加工(スリット加工)
切り込み加工(スリット加工)は、パンチで切断した後、プレス加工で板材を曲げながら切り込みを入れる方法です。絞り加工時の材料の流れを制御し、しわの発生を防ぐためにコイル材に施されることが多いです。
縁切り加工(トリミング加工)
縁切り加工(トリミング加工)は、加工の結果として余分になった部分を切り捨てるせん断加工です。絞り加工などで残った余分な縁を切断して、製品を仕上げる際に用いられます。旋盤を使用してトリミングをする場合もありますが、プレス機でせん断加工をすると効率的かつ一定の品質を保ちやすくなります。
穴あけ加工(ピアス加工)
穴あけ加工(ピアス加工)は、板材を打ち抜いて穴を開けるせん断加工です。ピアスパンチとボタンダイを組み合わせて、型抜きの要領で板材をくり抜くように切断します。穴あけ加工では、連続的に穴を開ける追い抜き加工と、追い抜き加工よりもピッチを細かくして打ち抜くニブリング加工が主流です。ニブリング加工は、より複雑な形状の穴を開けることが可能です。
総抜き加工(コンパウンド加工)
総抜き加工(コンパウンド加工)は、穴あけ加工と抜き打ち加工を同時に行う方法で、作業効率を大幅に向上させる目的で使用されます。金型を使用して、平板から一度のプレスで円形の部品を切り出し、その中心に穴を開けることが可能です。
具体的には、最初に金型を使って外形の円盤を切り出し、その後同じ金型を利用してその中心に穴を開けることで、同時に2つの加工を行います。この方法により、従来であれば2回の工程が必要なところ1回のプレスで済ませることができ、結果として時間とコストの大幅な削減を実現します。
精密せん断加工
精密せん断加工は、通常のせん断加工よりも優れたせん断面を作るための工法です。ダレ※1やバリ※2の発生を最小限に抑えて、断面形状を向上させることを目的としています。以下のような具体的な技術があります:
- シェービング加工:切断面全体をせん断面にして、破断面をなくす工法です。端面を板厚に対して3~10%削り取ります。
- ファインブランキング加工:V字形状の板押さえと逆板押さえを設置した専用のプレス機を使用して、ダレの発生を抑える加工方法です。
- 仕上げ抜き法:通常の打ち抜き加工よりも小さなクリアランスで行い、割れにくくする技術です。
- 対向ダイスせん断法:破断面をなくしダレを抑える技術で、上下のダイスに突起を設けた専用の複動プレスで加工します。
※1:切断面が不均一になると、パンチ側に発生します。切断時に板材が変形して、せん断面がなめらかでなくなる現象を指します。
※2:切断後に残る微細な突起や鋭利な部分で、ダイ側に発生します。切断時に材料が完全に切り離されずに残ってしまうことが原因とされています。
せん断加工に使用される主な機械
せん断加工では、プレス加工の機械を用いて機械的に切断します。ここでは一般的に使用されているせん断加工の主要な機械を紹介します。
シャーリングマシン
シャーリングマシンは、せん断による切断加工に特化した機械です。ハサミのように上下に刃を配置しているのが特徴で、圧力をかけることで材料を効率よく切断できます。ただし、シャーリングマシンの設計によって対応できる板厚が異なるため、注意が必要です。板厚が薄すぎると変形して切断が難しくなり、逆に厚すぎると物理的に切断が困難となり、刃が破損する可能性があります。
プレス機
プレス機は、幅広くせん断加工に活用されている機械です。板材と金型を組み合わせ、プレスによって圧力をかける仕組みになっています。汎用プレス機は、圧力などを設定して単純にプレスする設計で、処理速度も速いことから効率的なせん断加工が可能です。また、曲げ加工や絞り加工などにも使用できる多目的な機械です。
タレットパンチプレス
タレットパンチプレスは、汎用金型をセットして使用するプレス機の一種で、「タレパン」とも呼ばれています。丸型や角型などの汎用金型を使用して、打ち抜き加工や穴あけ加工に利用される機械です。専用金型を作成する必要がなく、高速にプレスできるため、生産効率が高いのが特徴です。大量生産の現場でも広く用いられています。
ファインブランキングプレス
ファインブランキングプレスは、精密せん断加工の一種であるファインブランキングに用いられる専用のプレス機です。せん断面の品質を高められるよう、最適な圧力をかけられる設計になっています。せん断加工後の後処理工程を減らせるため、コストカットにもつながる点から、多くの現場で導入されている機械の一つです。ステンレス鋼などの加工性が低い材料でも、高い精度で加工できるのも大きな利点です。
せん断加工による製品製造の注意点
ここでは、せん断加工による製品製造の注意点を解説します。
バリ・ダレの発生に対策する
せん断加工の品質を上げるためには、ダレとバリの対策が必要です。切断面全体が均一なせん断面になっているのが理想的ですが、パンチ側にはダレ、ダイ側にはバリが発生します。これらは加工によって除去できますが、精密せん断加工においても効果的な対策が求められています。
クリアランスを適切に設定する
クリアランスは、材料の種類や板厚、金型の形状、パンチの速度などに応じて適切に設定しなければなりません。クリアランスが大きすぎると材料の歪みが増加し、修正加工が必要となる場合があります。一方、クリアランスが小さすぎると、切断できず、トラブルが発生する可能性が高まります。使用する機械によってクリアランスの最適値は異なるため、自社で使用している機械に合わせた設定が重要です。
板厚を調節する
せん断加工をする際には、板厚の調整が必要です。使用する機械や材料によって異なりますが、鋼板や山形鋼の場合は板厚9mm以下、丸鋼の場合は棒径10mm以下が適しています。また、板厚に応じてダイとパンチのクリアランスの調整も重要です。一般的に、板厚が大きい場合にはクリアランスを大きめに設定する必要があります。ダレやバリの発生状況を確認しながら、最適な値に調整しましょう。
まとめ
せん断は、反対方向に同時に力を加えて材料を破断する切断方法です。せん断加工は、プレス機などを使用して機械的に行うため、高速かつ大量の製品生産を可能とします。ただし、精密にせん断して製品を仕上げるためには、クリアランスの適切な設定やバリ・ダレなどへの対策が欠かせません。せん断による製品製造を行う際には、これらの課題を考慮しつつ製造の流れを整え、効率的に生産できる仕組みの構築が重要です。
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